中国語の音節構造

中国語、発音よければ半ばよし

これは中国語教育者の相原茂氏の言葉です。文法は比較的簡単なのに発音が難しいのが中国語の特徴と言われています。ですが中国語の発音は日本語と同様に 子音+母音 のパターンに正規化されており、音節のパターンは有限です*1。その点で音節のパターンを数え上げることができない英語などよりはよほど簡単だと私は思っています*2

ところがこの正規化のパターンをわかりやすく説明しているテキストはあまりないようです。なので私の理解で説明を試みたいと思います。

なお、以下の説明は中国語の発音表記法であるピンインの知識が多少はあることを前提としています。

音節構造

日本語と同様に中国語の音節は 子音+母音 で構成されます。基本的に子音のみの音節はありません(例外は後述します)。母音はさらに 介音+主母音+尾音 に分解できます。例えば “了” (liao)の場合、

子音母音
介音主母音尾音
l i a o

となります。他にも以下のようなパターンがあります。

子音母音 備考
介音主母音尾音
i a o 子音なし
l a o 介音なし
l i e 尾音なし
l i 主母音と尾音なし
l a 介音と尾音なし

母音

日本語の母音は、アイウエオ の5つですが、中国語では a, e, i, u, ü の5つです。この5つの単母音に加え n, ng の鼻母音を組み合わせて二重母音、三重母音を構成します。一般的なテキストでは o も単母音として扱っていますが、私は o を加えない方が体系がわかりやすいと思います。

では、これらをどう組み合わせるか説明して行きます。

主母音

主母音となり得るのは a, e の2つだけです。a は明るいア、e は英語のシュワに似た曖昧な音です。このため他の母音と組み合わせたときに e は音色が変わります。

尾音

尾音となり得るのは i, u, n, ng の4つです。尾音は必ず主母音と組み合わせて音節を構成します。尾音がないパターンも加えると、主母音と尾音の組み合わせは以下の10通りになります。台湾で使われている発音表記法の注音符号では、この10通りの組み合わせそれぞれに単独の文字をあてています。*3

- i u n ng
a a ai ao an ang
e e ei ou en eng

ピンインでは a + u を ao、e + u を ou と表記します。o という単母音はないとしたのは、ここで登場する o は表記の揺れと考えるからです。

介音

介音となり得るのは i, u, ü の3つです。これに先ほどの10通りの 主母音+尾音 の組み合わせを掛け合わせると、母音が勢ぞろいします*4

a e ai ei ao ou an en ang eng
yi
(-i)
ya
(-ia)
ye
(-ie)
yao
(-iao)
you
(-iu)
yan
(-ian)
yin
(-in)
yang
(-iang)
ying
(-ing)
wu
(-u)
wa
(-ua)
wo
(-uo)
wai
(-uai)
wei
(-ui)
wan
(-uan)
wen
(-un)
wang
(-uang)
weng
(-ong)
yu
(-ü)
yue
(-üe)
yuan
(-üan)
yun
(-ün)
yong
(-iong)
単母音二重母音三重母音鼻母音

介音のピンイン表記は子音の有無で異なるので、表の上段に子音なしの場合の表記、下段に子音に続く場合の表記を記しました。

ピンインでは u + e を wo(-uo) と表記します*5。また三重母音や鼻母音では主母音 e の発音が非常に弱くなるので、e を表記しない音節もあります*6

ong, iong をこのように正規化せず、weng と ong も別の音とするテキストがほとんどですが、ong = u + eng, iong = ü + eng として正規化した方がわかりやすいと思います*7

子音

子音の一覧は以下の通りです。中国語では子音が組み合わさることはありません。

破裂音 破擦音 鼻音 摩擦音 接近音
(無気音)(有気音)(無気音)(有気音)
唇音 b p m f
舌尖音 d t n l
舌根音 g k h
舌面音 j q x
そり舌音 zh ch sh r
舌歯音 z c s

音節表

今まで登場した子音と母音を組み合わせたものが中国語の全音節となります。これを表したのが音節表です。子音と介音の組合せには相性があるので、①介音なし、②介音 i、③介音 u、④介音 ü の4つに分けるのが普通です。

介音なし

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介音 i

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介音 u

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介音 ü

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この表を見ると子音と介音の相性が一目瞭然です。例えば j, q, x の3つの子音には介音 i か ü の組合せしかありません。

zhi, chi, shi, ri および zi, ci, si ですが、ここに登場する母音 i は介音の i とは異なるとして、介音なしのグループに含めています。注音符号の考え方ではこれらの音節は「母音なし」と解釈します。

bo, po, mo, fo については、単母音の o ではなく wo の表記揺れと解釈し、介音 u のグループに含めました*8

数が多く複雑で覚えきれないようにも思える中国語の音節ですが、このように正規化して整理できれば覚えやすくなり、発音の向上にも役に立つのではないかと思います。

(付録) 注音符号

注音符号では母音、子音を以下のように表します。注音符号では、子音に1文字、介音に1文字、主母音+尾音に1文字を割り当て、最大3文字で1音節を表現します。母音の正規化はピンインよりも意識されていますが、e に関しては音色の変化を反映して、ㄜ(主母音の場合)、ㄝ(エに聞こえる場合)、ㄛ(オに聞こえる場合)と使い分けています。

母音

a e ai ei ao ou an en angeng
iㄧㄚㄧㄝㄧㄠㄧㄡㄧㄢㄧㄣㄧㄤㄧㄥ
uㄨㄚㄨㄛㄨㄞㄨㄟㄨㄢㄨㄣㄨㄤㄨㄥ
üㄩㄝㄩㄢㄩㄣㄩㄥ

子音

破裂音 破擦音 鼻音 摩擦音 接近音
(無気音) (有気音) (無気音) (有気音)
唇音
b

p

m

f
舌尖音
d

t

n

l
舌根音
g

k

h
舌面音
j

q

x
そり舌音
zh

ch

sh

r
舌歯音
z

c

s

*1:とは言っても「五十音」の日本語よりは相当数が多いですが

*2:例えば英語の strike はたった1音節で、構造は 子音+子音+子音+二重母音+子音 です。1つの音節の中で子音が連続できるため、組合せが爆発して全てのパターンなどとても数え上げられません

*3:そしてこの10種の音と声調を組み合わせたものが漢詩で踏む韻になります

*4:正確にはこれ以外に er という特殊な母音があります

*5:この o もやはり単母音ではなく表記の揺れ

*6:i + ou = iu や i + en = in など

*7:注音符号はこの流儀です

*8:という訳で単母音 o は登場しませんでした